~星ワタリ篇~【夢現八光年】

「よう、兄ちゃん。 金貸してくんね?」

短髪にピアス、タンクトップにジーンズという風貌の、いかにもガラの悪そうな筋肉質の大男が目の前に立っている。

それは棺の鞄を背負い、大通りに戻ろうとした矢先の出来事だった。

今まさに金をせびられようとしている。が、一銭も持っていない。

どこにでもいるんだな、こういうやつ……。
メアリは無表情のまま無視して立ち去ろうとした。

「おい、シカトすんなよ!」

殴りかかってきた手を避けようとした。弾みで、大切な地図の紙が風に飛ばされてしまう。

「ああーーっ!!」

急いで手を伸ばすが、ペラペラと宙を高く舞って、無情にも星空の彼方へと消えていった。

「なにすんだよ!!」

怒りの形相を大男に向ける。

「うるせえ!さっさと有り金出しやがれ! おい野郎ども!こいつをやっちまいな!」

狭い裏路地のどこに潜んでいたのか、いかにもチンピラな男たちがこちら目がけてワラワラ飛び出してくる。

だが殴りかかってくるその手をいとも簡単に避けるメアリ。
相手の腕を掴み、バッタバッタとなぎ倒していく。

その様子を見て驚き、手出しもできずに青ざめる大男。

地面にどんどんチンピラたちが積みあがっていく。
そしてついには大男を残すだけとなってしまった。

ガタガタ震えだす大男。

「お、覚えてろよ~! コンチクショウ~!!」

涙目で走り去ってしまった。

「なんだったんだ? あのザコ……」

って、それよりも地図が! どうすれば――。

「そこな、おにいは~ん?」

後ろから声がした。
またか?と、げんなり嫌そうな顔で振り返るメアリ。

黒髪の着物姿の青年が立っていた。

顔形がとても整い、麗しく奇妙な色気を醸し出している。

一歩下がった後ろに、金髪で眼鏡の男性と長髪で背の高い男性が護衛のように付いている。

「あんたがメアリはん?」

「誰だ? 貴様?」

名前を呼ばれて思わず身構えてしまう。

「エドワードから電話で話しは聞いとるえ。メアリはん。
めちゃくちゃ目立っとるから、ひと目で分かったわ」

エドワード、と聞いて驚いた。
というか、やっぱり目立っていたのか。

青年は足元に転がっているチンピラたちに目をやる。

「この辺、物騒やから迎えに来たんやけど……必要なかったみたいやな♪」

にっこり笑顔を向けられた。

メアリは思わず、星空に向かって感謝の祈りを捧げる。

――おお、エド様、どうもありがとうございます!!

エドワードの姿が神々しく空に浮かんでいるかのように見えた。
同時に、「生きていますよ~!」と焦る声が聞こえた気がした。

「金が必要なんやろ? 立ち話もなんやし、住居に案内するからついてきい」

青年は言うと、護衛を後ろにゆっくりと歩き出した。

「あ……」
メアリは照れくさそうに呟く。
「ありがとう……」

なんだか感謝をする出来事ばかりだ……。
そう思いながら青年の後をついていく。

だがメアリを後ろに、青年は妖しく口元を笑ませていた。

「エドの言うてた通り、男前のおにいはんやな……」

関連記事